芝生と芝生管理の話(第3回)

Winter Over Seed(W.O.S.)

1.ウィンターオーバーシードとは?

前回までにお話したとおり、愛鷹広域公園多目的競技場・スポーツ広場ではウィンターオーバーシード(以下、WOS)を採用しています。Jリーグ発足以来、各ホームスタジアムの芝生がエバーグリーン(常緑)である事が条件とされ、2002年日韓ワールドカップを契機に日本各地のスタジアムが注目を集めて以来、サッカーグラウンドの芝生は冬でも緑といった印象を持たれている方も多いと思います。現在はそれらのスタジアムやプロチームの練習場以外、つまり愛鷹などの県営公園や市営公園のグラウンドでもWOSを採用している場所も多数存在しています。

2006年WOSをしていない時の多目的競技場2006年WOSをしていない時の多目的競技場 2008年WOS完了時の多目的競技場2008年WOS完了時の多目的競技場



では、いったいWOSとは?
WOSとは第2回でもお話した「冬季・上から・種播き」と直訳できるとおり、芝生の上に違う種類の芝生の種を播くことを意味します。多目的競技場ではベースとなる芝生に暖地型であるティフトンを使用している為、冬期間は休眠し茶色になってしまいます。この状態、つまり芝生が眠っている状態のままサッカーなどで使用されてしまうと、スパイクでついた傷が回復せずに擦り切れて芝生が無くなってしまい、翌春には芝生が無いといった状況になります。このように冬の間、休眠中のティフトンが傷つくのを防ぐ為に冬でも生育する寒地型の芝生の種を期間限定で播く事をウィンターオーバーシードと言います。結果、冬でも緑のグラウンドが出来上がります。

WOSに使用する寒地型芝生の種はペレニアルライグラス(以下、ライグラス)を使用します。このライグラスは初期成育が早く、夏の暑さに弱いので翌年の夏には無くなってしまいます。(正確には意図的に無くすと言ったほうが正しいのですが・・・)また、冬の寒さでも極端に変色しない種類でもあります。一口にライグラスといっても様々な特性を持った種類があります。例えば、初期成育が早いもの・遅いもの。葉色が濃いもの・薄いもの。踏圧に強いもの・弱いもの。夏の暑さに強いもの・弱いもの。この中からグラウンドキーパーがその年に播く種類を選定します。

ベレニアルライグラスの種子ベレニアルライグラスの種子 ベレニアルライグラスの種子と種蒔器ベレニアルライグラスの種子と種蒔器


種の種類が決まったら次はいよいよ実作業に入りますが、芝生管理者にとっては1年の内で最も大きなイベントのようなものです。例年9月下旬頃から行うのですが、この時はまだベースのティフトンは緑の状態のままです。完全に冬枯れ休眠してからでは気温・地温ともに低すぎてライグラスも発芽しなくなってしまうのでこの時期に種播きを行います。まず、夏の暑さで旺盛に育ったティフトン表面を間引くバーチカルカットを行います。こうして表面を間引くことによってライグラスの種が芝の表面ではなく地面にしっかり落下し、上から砂を撒くことによって種はしっかりと落ち着きます。その後、乾燥させないように日々の天気を見ながら散水を行うと一週間程度で発芽してきますが、この時期がライグラスをはじめ植物にとって最もデリケートな時期であり油断は禁物です。
毎年10月に愛鷹では多目的競技場・スポーツ広場共にWOS養生として利用制限にご協力いただいていますが、これは種播き後ライグラスを1ヶ月間で可能な限り生育させ、 冬の間の使用に耐えられる芝作りを行っている為なのです。

バーチカルカット作業バーチカルカット作業 目砂散布作業目砂散布作業


こうして完成した期間限定の寒地型芝生のグラウンドは休眠しているティフトンにとってクッションとなり、プレーヤーの踏圧(とうあつ:踏み固められる事)から守ってくれます。また雨が降ってもライグラスが水分を吸上げることで湿った状態が短くなり、グラウンドが水分で柔らかくなる事も防止しています。
Jリーグや代表戦のTV中継で良くわかりますが、寒地型芝生のセブラカット(シマ模様)は非常に美しく、見た目にも鮮やかで映えますが、美観向上の為だけにWOSを採用しているのではなく、全てはベース芝であるティフトンの為に行う作業なのです。つまり冬期間の利用が無ければWOSは行わなくても良いのかもしれません。

夏芝(ティフトン)のみの状態夏芝(ティフトン)のみの状態 夏芝(ティフトン)にライグラスが覆った状態夏芝(ティフトン)にライグラスが覆った状態


芝生と芝生管理の話(第2回)

年中緑色の芝と、冬茶色く枯れてしまう芝のお話

公園やお庭などで、冬茶色く枯れていた芝が、春、緑になるのは季節感があってよいものです。
「枯れ芝」は冬の、「芝焼」「若芝」は春の俳句の季語になっています。
「青芝」となると夏の季語だそうですが、近頃のサッカー場や冬が最盛期のラグビー場の芝も、冬に真っ青な緑の芝ですよね。どうなっているのでしょうか?

愛鷹広域公園野球場の 「枯れ芝」2月
愛鷹広域公園野球場の 「枯れ芝」
愛鷹広域公園野球場の「枯れ芝」から「若芝」へ入れ替わり頃4月
愛鷹広域公園野球場の「枯れ芝」から「若芝」へ入れ替わり頃
愛鷹広域公園野球場の「若芝」中央作業車は枯れ芝をかき出す作業中5月
愛鷹広域公園野球場の「若芝」中央作業車は枯れ芝をかき出す作業中
愛鷹広域公園野球場の「青芝」野球場はコウライシバ7月
愛鷹広域公園野球場の「青芝」野球場はコウライシバ
愛鷹広域公園スポーツ広場の「青芝」子供サッカー教室で教えるラモス監督ここの芝はティフトン4198月の
愛鷹広域公園スポーツ広場の「青芝」子供サッカー教室で教えるラモス監督ここの芝はティフトン419
愛鷹広域公園スポーツ広場の「青芝」と手前の「枯れ芝」2月の
愛鷹広域公園スポーツ広場の「青芝」と手前の「枯れ芝」


季語がまちがっているのかな?

間違いではありません。その秘密の「かぎ」は、「日本芝」にあります。俳句の季語は、勿論日本生まれで、日本在来の季節感を短い単語に託していますよね。「日本芝」も日本在来の在来種の草の一つで、そのうちの「ノシバ(野芝)」の学名は”Zoysia japonica”(ゾイシア ジャポニカ)と言います。
ジャポニカ産であることが世界中に公認されているわけです。その日本芝は、夏芝(暖地型芝草)と呼ばれ、気温が摂氏10度を下回ると活動を停止し、葉は枯れてしまい、休眠してしまいます。と言うわけで、季語に使われた対象は日本芝で、夏は青々とした「青芝」、冬は「枯れ芝」となって休眠し、春摂氏15℃になると活発に動き出して「若芝」となるのです。
では、冬青い芝は、どうして青いのでしょう?
冬青い芝は、日本芝と種類が異なり「冬芝」と呼ばれます。冬青い「麦」の一種と思ってもらえるとわかるでしょうか。冬、青々としたサーカー場で多用されるペレニアルライグラスという芝は、日本名を「ホソムギ」と呼ばれています。冬芝(寒地型芝草)と呼ばれる草種は、冬は緑を保っていますが、夏には弱く、「夏バテ」をしてしまい、時には「溶けるように枯れてなくなってしまう」ことも多く、愛鷹広域公園の「スポーツ広場」の真ん中付近はこのために、毎年裸地化してしまいます。「スポーツ広場」の真ん中付近は、ペレニアルライグラスだけの状態のために、夏、消えてしまうように冬芝がなくなってしまうのです。

冬芝だけの場所は、夏禿げてしまう「スポーツ広場」冬芝だけの場所は、夏禿げてしまう「スポーツ広場」


では、年中緑を保っているのはどうしてなのでしょうか?
冬芝だけで夏を越す事が出来る芝の種類もあります。このタイプのサッカー場は、静岡スタジアムエコパや鹿島スタジアムが有名です。
それでも夏バテはしますから、管理に大変な気を使いますし、時には夏枯れで茶色くなってしまう場合もありました(有名なグラウンドでも)。
夏型の芝と、冬型の芝の両方を使っているタイプのグラウンドもあります。日産スタジアムや、霞ヶ丘国立競技場などはこちらのタイプです。
このタイプをウィンターオーバーシード(WOS)を行っているグラウンドと呼んでいます。
愛鷹広域公園の多目的競技場もこのタイプです。
「ウィンターオーバーシード」、直訳しますと「冬季、上から、種蒔き」となります。
この場合、冬に向けてある種の芝の上に、別の芝生の種を撒くことを指しています。この詳しい話は、次回お話致しますが、「ある芝」と「別の芝生の種」について先にお話いたしましょう。

夏芝と冬芝

「日本芝」を夏芝といいましたが、「日本芝」には、ノシバ、コウライシバ、ビロードシバなどがあります。
ゴルフ場のパッティンググリーンに使用されるヒメコウライもこの仲間です。コウライと名がつくのですから朝鮮半島が原産と皆さんは思われると思いますが、コウライシバは、ノシバより暖かいところを好みますから、朝鮮半島にも自生種はあるでしょうがそれ程多くはありません。
むしろノシバの自生のほうが多いはずです。
いずれにしても、ニホン列島、チョウセン半島辺りが原産地です。
それ以外にも夏芝はあります。バミューダグラスが有名で、これの改良品種にティフトンと名が付くものがあります。
少しサッカー場などに詳しい方は、ハハー「419」の事だなと気付いた方もいらっしゃるでしょう。
先ほど紹介した日産スタジアムや、霞ヶ丘国立競技場、味の素スタジアムなどは「ティフトン419」にウィンターオーバーシードを行っているのです。
419って中途半端な数字は何故?ッテ思っている方もいらっしゃるでしょうね!
そうです、このほかにも「ティフトン328」「ティフトン10」等がアメリカ合衆国では商品化さていますが、これらの番号は、この芝を開発している時の番号のようです。
この話をすると長くなりますから、機会があったらそのときに詳しく話しましょうね。
セントオーガスチングラス、センチピードグラスなど最近日本でも流通してきた芝種や、海水ほどの塩分でも成長できるパスパーラムといった芝もあります。
共通している事は、九州以北では夏芝は冬期間休眠し、冬枯れて葉が茶色くなってしまい、春活動を再開して緑を取り戻します。例外的に、沖縄県では、平均気温が高いために、夏芝の殆どが、休眠をせずに、年中緑を保っています。
休眠するかしないかの境目は、平均気温摂氏10℃が目安となります。

冬青い、冬芝の代表格は、先程でてきたペレニアルライグラスとケンタッキーブルーグラス、トールフェスクなどです。ゴルフをなさる方ならベントグラス(「ベント」)の名は知らない人は無いと思いますが、これも冬芝(寒地型芝草)です。
これらは冬芝と名がつくのですから夏は苦手です。
夏苦手な理由は、草種による差が多少ありますが、摂氏30℃で生育活動を停止し、摂氏35℃で枯れ始めるとされています。
植物生理上の理由がありますが、書き始めると長くなりますので割愛いたします。
冬芝の生育は、夏芝の逆で、当然ながら寒冷地を好みますから、東北地方以北では、冬芝だけで通年緑を保っております。日韓サッカーワールドカップ会場となった、宮城スタジアム・札幌ドームなどが有名です。
冬芝でも、草種によっては、関東地方以西以南でも夏を越す事は出来ます。先ほど触れた静岡スタジアムエコパ・鹿島スタジアムなどで、これらはケンタッキーブルーグラスという草種で維持されています。
また、十分な散水や、サンドグリーンといった特殊な条件での管理手法が確立されてから、ベントグラスは九州でも夏を越す事が出来るようになりました。
夏を越す事は出来ますが、冬芝にかかるストレスは強大ですから、この時期の管理には大変な気を使っています。
ペレニアルライグラスという草種単独では、試合で使いながら夏越しをするのが、むつかしいのが現状です。
ウィンターオーバーシードのお話は、次回お話しましょう。

芝生と芝生管理の話(第1回)

人間が手を掛けて育てた生物は皆そうですが、程度の差はあってもずーっと手をかけ続けなければなりません。
手を離してしまえば、動物は野生化するか、死んでしまい、植物もそのほとんどは野生化(雑草化)するか、消滅してしまいます。
まして、過酷な使用条件に晒されるサッカー場の芝生などのスポーツターフは、人間の手をかけつづける管理作業が必須条件になります。
芝生の使用頻度が高くなれば、より一層管理作業が重要になってきます。
最近学校の校庭を芝生化する動きが盛んに報道され、東京都は今後10年で公立の小学校を全部芝生化すると伝えられました。
学校校庭の芝生は毎日使われ続けて、酷使される代表のようなものですが、管理がキチンと行われてもかなり禿げた状態のところも見かけます。
下の写真は、同じ時期に同じような芝生を使って工事をし、同じ時期に開放したけれど、管理作業をキチンと行った学校と、管理作業は行ったけれどかなり形式的にしか行われなかった学校の比較写真です。

芝生の傷み具合1 よく見ると左も傷んでいます。
この時点の緑被率は50%程度です。


生徒一人当たりの面積も4㎡/一人と同じ程度で、使用開始後8ヶ月の状況です。
管理の良し悪しでこんなに差が出てしまいます。
これは極端な例ですが、愛鷹広域公園の芝生管理はどんな事をやって、皆さんに出来る限りよい状態で提供しているかを今後ご紹介したいと思います。


2月18日に、愛鷹多目的競技場で、清水エスパルスと横浜FマリノスとのJリーグプレシーズンマッチが開催されたことは、テレビニュースや新聞でご存知の方も多いと思います。
この試合をご覧になったかたから、真ん中が剥げてしまってJリーグの試合にふさわしくないとのご批判の声もあったと聞いています。

清水エスパルスvs横浜Fマリノスのプレシーズンマッチ対戦中の写真 左の写真は平成19年2月18日撮影
愛鷹広域公園・多目的競技場で行われた
清水エスパルスvs横浜Fマリノスの
プレシーズンマッチ対戦中の写真です。


Jリーグですから、プレシーズンマッチといっても、Jリーグのマッチコミッショナーが試合を行って良いか否かの判断をするインスペクションが行われました。
試合を行える状態であるとの判断で試合が開催されたわけですが、試合後「センターサークルを中心に芝の痛みはあるが、使用頻度が高ければ芝が傷むのは当然だが、良く手入がされており、痛んだ状態でもプレーが十分に出来るだけのピッチコンディションには仕上がっていた。」との談話があったと聞いています。
芝生の管理者としてはウレシ、ハズカシといったところです。

平成18年7月15日 ダイヤモンドカット平成18年7月15日 ダイヤモンドカット 平成18年8月3日 ゼブラカット平成18年8月3日 ゼブラカット


勿論、緑一色の綺麗なゼブラカットをお見せしたかったのですが、県の広域公園の多目の競技場ですから、出来る限り利用制限をしないで開放し、使用頻度は通常のJリーグ開催クラスの競技場の3倍以上であることから、芝生の痛みはかなりの程度になってしまっています。
通常のJリーグ開催クラスの、年間40試合~80試合程度の使用頻度であれば、緑一色に綺麗なゼブラカットをお見せできます。
年間300試合以上を行っても「良く手入がされており、痛んだ状態でもプレーが十分に出来るだけのピッチコンディションには仕上がっていた。」と評価して頂けたことは誇りに思っています。
今後も多目的競技場と同様に野球場、スポーツ広場においても利用者に喜んで頂けるよう最善の維持管理・向上に取り組んでいきます。